@き氣せられるより用ひた言葉である。なほ蟋蟀は彼地にては當夜あたりまで爐邊に棲息するが如し。
[#ここで字下げ終わり]
苦惱
わたしの心|惡鬼《あくき》のやうに物皆かなぐり棄てて髮振り亂し、
この人生に立ち迎へ、おお!
恍惚の日、初めて脣と脣を合せた日、一週日のあと、
この險惡な嵐の心にわたしは落つ。
おお何ものがわたしを斯くするか、斯くするかよ!
雨よ打て、わが鞭となり、
風よ吹け、その夜の黒い汁を無限にゆらめかし、
そして此の惱みに沈む青年の亂髮を思ひのまゝに梳づれ。
ああ生は見よ、私のために高く攀ぢがたい門となつた。
ああ戀人よ、遠くに靜かに眠る戀人よ、
身はのめり、魂は死し、
その上に狼は
足を踏まへて闇のなかに吠える!
[#地から1字上げ]8 ※[#ローマ数字1、1−13−21] 2
過去
自然は私に教へた、わたしの心は青く硬《かた》い果《このみ》のやうであることを。
わたしの今の時期はああ、その果《このみ》を眞茂《ましげ》る葉から日にさしのばす初夏の時期
わがために短かつたあの春は嵐の哮《たけ》りに、暗い氷雨《ひさめ》の打撃《うち》に、
さむい天氣の打續き
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