秩C あれは遠い遠い向うの國のことだね、
おれもお前も知らない國のこと、
銀紙のピカピカ光る小枝に綿の笹縁《ささべり》の雪、
七面鳥と土産の麥酒《ビイル》に笑ひさざめく一家内。

(丸太小舍には降りつもる年の雪。)

Well my dear, あれは私等の國にはない、
俺もお前も話で聞いた土地風俗、
そして夜更となり、村中寢沈まり、
はためく吹雪のなかの煙突。

(丸太小舍には此の頃忍び込む、例の赤裝束のお爺《ぢい》さん。)
Well my dear, あれはあの國の面白い人情だね、面白い人情……
おれもお前もほほゑむ世界、
ところであの國の人間は今|鬪《たたか》つてゐる、
そしてああ彼《あ》の一夜の祝ひ、
敵も味方も抱《いだ》きあふ雪の原つぱ、
兵隊外套連の交歡の賑ひ。

(丸太小舍には老の夫婦、夜半《よなか》頃から鳴きだす蟋蟀。)
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作者註。この作は歐洲戰爭中獨墺軍と聯合軍とが特にクリスマスの夜のみは戰ひをやめて敵味方打交り隨所に會合して當夜の祭を祝し合つたのを思ひ出して書いたものである。年の瀬年の雪とは歐洲の習俗にて當夜の祝ひが日本の大晦日の年越しの祝ひの
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