折り不圖感じた物思ひから、
入れた朱斑《あかぶち》の目高魚一疋……
『ああ何ゆゑのこの朱ぞ、
トランプのハートの黒い變色《へんしよく》、
品川沖の外國廢船の赤錆《あかさび》、
此の胸の奧に潜《ひそ》む云ひやうない苦しさ、
死の感激……』

朝風吹いて庭の枝々きしめけば、
君は天から天女《てんによ》のやうにふはりと飛んで來るかと思ふ……。

 第三篇

  感激

空しい月日のぴんぴんいとひき車、
古手《ふるて》の『人生觀』がこほんこほんと咳をして、
さて金錆《きんさ》びのした嗄れ聲、
――感激とは萬朶の火の花だよ。
東洋の毛脛あらはな蟻の國
ながいものには卷かれる國粹保存主義、
金甌無缺のわが帝土に
おう、お、わたし等の生涯はつねにずぶずぶ水浸し!

青年、青年、火の信仰、淨い熱、
わが眼は空かける大鳥のごとく此の墮落の國を俯瞰し看破しよう。
わが守り神、晴れやかな天、白い雲。
萬づ物みな新らしい芽生えの春、
わが心涸れしなびたれど、之れ思へば、
つねに死なず。

  感謝

わたし共にもやがて最後の時が來て、
この人生と別れるなら、
願はくば有難うと云つて此の人生に別れませう。


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