色の粉雪《こなゆき》、七むつかしい顰めつ面の迷ひ雲、
雲は下界のあらゆる聽覺を障ぎり、
老と沈默《しじま》と追憶の、
ひとりぼつちの古美術品展覽會、
ああ、世の聾《つんぼ》の老博士、無言教の寡婦さん、
子に先だたれた愁傷な親御達!
あなたがたの悔や嘆きもさる事ながら、
願はくば死ぬ時この人生にお禮を云つて御暇乞をして下さい。
それは慥かに人生に對する寛容の美徳です。
惡に報いる金色の光り放つ善です。
生はそれぐらゐ氣位高く、強く、明るく、
情熱を以つて、
鏡のごとく果つべきです。
禮儀
[#天から4字下げ]A MME. GOFFOUSIEUX.
裸《はだか》ん坊《ばう》のわたしの心に、ああ天よ、花の紋うつくしい緑の晴れ着を與へたまへ、
わたしの眞率な心はこの氣高い『禮儀』にいままで心づかなんだ。
ああ五月! 五月は野の林に卯《う》つ木《ぎ》の白い花咲く月、
空には夏の威勢をはやも見せたる雲の Warriojs《ウオリアス》 の兜のかげほの見えて、
初夏《はつなつ》にふさはしい滿目の輕げな裝ひ、
その白皙人の瞳に似た青い空……
水色の絹地におなじ水色レエスの刺繍《ぬひとり》ある
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