覆ひ。
わが行く方に
いかめしくも美しい冬の、
われを待ちつつ
豹の如く覗ふ。
ああわたしは一人の旅人《たびびと》か、
たえず人《ひと》寂《さ》びれた往還を歩み、
彼方《かなた》廣い空にわだかまる銀の雲を、
目がけて歩む、
ひとりの旅人か。
獵師
ああ、地に敷いた落葉《おちば》、
そそり立つ骨まばらな老木《おいき》、
いま私は銃を手にして、
鳩でもない、山鳥でもない、
その梢に鳴く頬白を射てやらうと、
なぜか鐵砲をむけてゐる。
ああ、なぜ小鳥を射る、
そのうつくしい聲の主を?
その聲があんまりよいもんだから、
私を魅いてしまふんだから、
原あり、
透きとほつてるたまり水あり、
木あり、巨大な枝をさし交してる老木《おいき》の林があり、
白い雲のなかに見える瑠璃色のおだやかな空あり、
枯れ草日に輝く草の床あり、
その景色にあの小鳥の聲があんまりするどく、心持よいもんだから
わが心に頭をもたげたいたづら心が、
お前ののどをねらはせたのだ。
私はお前を打ちはしない、
ただお前がこの野原一面の沈默を破つて、
不意に囀り出すとき、
私はそのするどい心持よさに釣られて、
無心に銃の筒先
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