をしてるが、
まるでどこかの草原にでも寢てる樣だ。
屋根屋根は灰色《はひいろ》で、
空はまつさをで、
その中に赤い雲が一と切れふはりと浮んでゐる。

その時私の心の中で蟲の樣なものが一心《いつしん》に鳴いてゐる。
――ああ、戀だ、
もつともつらい戀だ!
さうに違ひない、
暗い、
盲目《まうもく》なもの、
耳にぢぢぢ……とひつきりなく鳴く。

――ああ、戀、
戀!
私はこの美しい、嵐の中の眞蒼な靜かな天、
綺麗なヒステリーの女の眼のやうな天を、
今戀してるのだ……
[#地から1字上げ]5 ※[#ローマ数字6、1−13−26] 21

  番人の娘を戀ふ

お前の心にゑりつけよう、
私の心の底の文字を……
お前はそれを讀むか、
ああ黒い吾が夜々《よなよな》の夢よ。

わが夢は夜毎その字の意味を解き聞かせる。
ああ斯うしてつもりつもつた幾夜、
或る晩窓を開き、
遠くに光る星を見、
暗の中に搖れる樹を見、
つきなんとしてるお前の家の
有明《ありあけ》の灯《ともしび》を見る。

ああこの闇の庭に來て鳴け、
可愛いい雌鹿。
ああこの闇の庭に來て鳴け、
可愛いい雌鹿。
お前の夜を守《も》る灯《ともし
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