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だがこれだけは考へて置け、
おれのする事は眞面目だが、
君達がすると醉興になるといふことを!)
[#ここで字下げ終わり]
ああ身を切るほど冷《つめた》い河水を對岸《むかうぎし》を目あてにして、
あの雪に埋れた對岸を目あてにして、
おれは泳いで行く。
あああの對岸《むかうぎし》の美しいことよ、
向うの景色の鮮明なことよ!
私の心臟は寒さと四肢《てあし》の烈しい動きと、
それにまたこの美しい景色を見る感動とで、
つぶれるやうだ。
それでも私は泳ぐ、
なほなほ泳ぐ。
溺れるか乘り切るかそれは知らぬ。
唯だ私はこの胸に脈打つ心臟と同じく、
動き出したら止まない力で前へ前へと泳ぎ出す。
[#地から1字上げ]3 ※[#ローマ数字12、1−13−55]
冬越しの牧場
千年を千度《せんた》び重ねてわれ等祖先のうへに溯る、
私は太古の穴居時代の夢を見た。
幾千年は瞬くまにすぎて、その鐘乳岩の壁かがやく洞窟で、
私は最後に見つけた、ああ、その一とつまみの青草を!
いま私は現實の野外にゐる、
そこには冬越しの青草が可愛げもなく色褪せて生えのこる。
しかしこの草がいつか桃色の花咲くとき
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