は愚鈍な木に違ひない。
だがこの木が、
あの底光りする天上の一つ星を見てゐるとは、
誰れが知らう。
あの凄い底びかりする星を見てゐるとは、
誰れが知らう。
曲つた木
或る木は若木《わかぎ》のとき痺《しび》れ藥《ぐすり》をのまされた。
彼れは一生花も咲くことなくひよろりと大きく伸び育つた。
そこで通りかゝりの人間は變つた木だと、
その高い梢をながめた。
ところが不思議なことから、
梢に一つ花が咲いた。
ほんの小さい形ばかりの花だ、
そこで奇蹟が始つた。
彼れは舊來の毒血《どくち》に謀反をおこした、
そして身をもがき出した。
彼れには今二つのどちかが必要だ、
この過去の怨靈《をんりやう》を嘔吐《おうと》するか、
またはこの痺《しび》れ藥《ぐすり》以上の毒消し藥を飮むか……
だがさうしてる内に冬がやつて來た、
そして雪が降つた、
どんどん降つた、
眼もあけられない位降り込めた、
一と月も二た月も……
彼れは舊來の毒のきゝめで方々の節々《ふしぶし》が凍るやうな痛さを感じた。
何だか膸のあたりが筋《すぢ》をひいて痛み出した。
しかし心では重々しく思つた、
――ああ盛なる自然
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