うだ
おれは死の地《ち》、死の陰《かげ》に坐せるものから來た。
永遠に光のない土地から來た』と風がささやく。

彼等は互ひに見つめあつた、
木の葉はそよいだ、
風はそよそよと吹いた。
彼等は耳こすりした。
接吻した。
それから風は行く果も知らず飛んで行き、
木の葉はたえ間もなく身をふるはせた。

『ああおまへはどこから來た、
どこから來た』と暫くあつて木の葉はまたそよいだ。

『おれは遠くから來た、
光のない土地から來た、
今來たもののあとへ續いて來た』と別の風がささやいた。

『ああおまへの來るのは止む間もない、
あとからあとからと續いて來る』と木の葉がささやいた。

『それはさうだ、
おれは永遠の意志だ、
行つて行つてとまる事がない』と風はそよそよと吹いた。

『おまへの來るところには寒氣がする、
おまへの來るところには氣持よい影がない、
おまへの來るところにはあらゆる生きたものが、
すがれてしまふ』と木の葉がささやいた。

『それはさうだ。だがあれを見ろ』と風はささやいた。
彼等は闇の中に目をやつた、
ひときは光をまして星が輝いてゐた、
遠い闇底に涙のやうににじんで大きく輝いてゐ
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