になる孫子にも嫁にも皆死なれて、村役場から米だの錢だのを貰つて、厩《ウマヤ》よりもまだ汚い小屋へ這入つてヨ、乞食をして暮らす樣子が眼に見えて來ようぢやないか。へん! 他人に惡口をいふ隙に、自分の飯茶碗の蠅をお拂ひよ。十年も後家を立てて、彼方の嚊ア此方の嚊アから姦男《マヲトコ》をしたの、亭主を取つたのと呶鳴りこまれて、年がら年中おこらせてゐたつて何になるよ。若くたつてわたしを好きだといふから、連れ添つた夫婦だあね。十年も死んだ亭主に義理立てて、この上なに惡口言はれる事があるんだらう。蠅をお拂ひよお前さんの飯の上の蠅をお拂ひよ。はゝゝゝゝゝ。いや、ステキだね、ステキだねえ、春になつて、鯡を干して、馬を出して、春風の吹く中で田をこねて、はゝゝゝゝゝ、お晝になれば、コブシの花を眺めてお酒を飮んでそれからまたノツシノツシと田へ這入つて、はゝゝゝゝ「婆の腰ア、ホウイヤ、ホウ……、婆の腰ア、婆の腰ア、ホウエヤ、ホウ……」

斷り書 ○地方主義の作家はその地方語をもつて創作することを主張するものである、詩、小説、戲曲すべて之れを實行せよといふ。私の右の一篇はその最初の試みを散文詩の上でしたものである。
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