てゐる。地續きのお膝下《ひざもと》の村と云つていい。人間と土地とを結びつける神祕的關係、自分の親も嘗つて此の土地を踏み、その親の親たる祖先も嘗つて踏んだのだといふ眼に見えない關係が異常に強く心に働く反射的意識、わたしの頭には十三の年死別れた父親が今のわたしらの年、何かの用事でこんな星闇のおそい晩、ここいらを獨りさびしく歩いたかも知れぬと思ひ、またここから未だ少し北にある村から聟になつてきたといふ祖父が、おなじやうにその一生中の此の年頃に、たけしい心持を懷いてここいら邊を深夜獨り旅したことがあるかも知れぬと思ふ。
 大自然はたとへ死物でも、人間が幾代も掛けて作り出す縁故は、人間の意識を不思議な深さまでくり擴げる。これが深夜無人の境地のやうな廣い林檎畠の路をあるいても、わたしを少しも淋しがらせてくれないのである。
[#地から1字上げ]大正十三年十二月・津輕青女子

  土地の愛

 故郷、故郷! ほかの土地の人間からどんなに詰まらなく見えるところでも、これを故郷とする人間にとつて土地が心に及ぼす作用は異常である。われ等がこの世に初めて生れいでた土地に生えてゐる一と撮みの草だつて一とかけの石
前へ 次へ
全43ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福士 幸次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング