夜中に目が醒めて自分は覺えず戰慄した。吾が生は依然として矢張進むべき針路が見つからない。自分は暗黒のどん底に墜ち、夢の中に死と遭遇した。斯くして自殺の考へが又起つたけれども死ねなかつた。自分は人生は如何に苦しくてもみじめでもその將來のよくなることをその前年からその前年、その前時代からさらにその前の時代と推して考へずには居られなかつた。その太極はどうでもあれ確にその事實はさうだ。自分は如何に苦しくてもその人生を見殘して死にたくない。今死ねば暗《やみ》から暗である。自分はその暗《くら》さには堪へられない。
 一體自分は子供の時から考へて見ても性來明るいぼつとした子供である。過去四年間の『錘[#「錘」は太字]』以來の詩にも屡※[#二の字点、1−2−22]その厭世的な陰鬱な心持の中から吾れ知らず迸つて來るのは何等|燻《くす》んだ色のない都會を歌つた詩、海を歌つた詩にある快活な樂天的なリズムである。けれども自分の心は一切喜びを封ぜられた。人生に生きるべき意義を失ひ、一切に絶望し一切を虚無《ニヒル》と見流し、既に詩作さへ無意味だと感じて居たのだけれどもその心を裏切る生《せい》の未練が死を戀うて蟲け
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