んぼろんとピアノの音色がをどりだす
路にしみる日暮がたの寒むさよ
身にしみるピアノの音色よ
私はそろそろ黒い林の多い
冬の旅仕度を思ひ始めた
PROMENADE. ――十一月二十五日
私はいま波をおさへてゐる
その波の底には薄蒼《うすあを》い灯影《ほかげ》の町が沈んでゐる
私は今ひとりたどる
柳の樹の下道を
でこぼこ柔い煉化道は
私の胸がをどるトーン程に
さらさらと心の隅から隅へ消えて行く柳の枝は
私の興奮した顏を撫でる夜風ほどに
唯だいそいそと足どりもの昏く
薄蒼《うすあを》いガラスの灯影とまた闇の中にわかれ
私のからにふる空手は
もうあの柔い手を握りしめてゐる
あの心をきうきうきゆつと捉《つかま》へてゐる
友情 ――十一月
ゴールデンバツトを吸ひながら
僕は日の暮れ方の倉庫街を思ひ出した
赤く金《きん》をかすつた斷《ちぎ》れ雲が
空いつぱいに光つて居る
一群《ひとむれ》の屋根草は同じ色に染つて光つてゐる
河沿ひの倉庫は一列になつて
掘割りの水深く落ちてゐる
その水はいつも流れず
いつも淀まず
むねもあらはにさらけ出して
冷たい嘆きをうつしてゐる
僕はそのあと二た月
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