かはら》を過る時
嵐《あらし》のやうに渦卷《うづま》いた生涯《しやうがい》を
冷い眼《まなこ》で射返《いかへ》す――吾等!
『鴉《からす》』が翼を慄《ふるは》した Never more は
石に滲《にじ》む冬の日の涙
君の苦熱《くねつ》におくれた吾等は
晴れた雪を渡る風の音!

………………………
……空《むな》しく吾等は凍《こほ》り果て、た!

この慄《ふる》ひ動く唇《くちびる》から――
「ピストルで
此の腦髓《なうずゐ》を貫《つらぬ》いてくれ」
と言つた君の最後の詩《うた》を
封《ふう》ずる事を……

 記憶と沈默

[#天から4字下げ]おお神よ、汝は吾が愛を傷つけたまへり
[#地から2字上げ]ポオル・ヴエルレエヌ『智慧』

[#地から2字上げ]明治四十三年作

  南の海岸 ――一月

日向《ひなた》をふみ、蝋色の花をふみ

砂丘《さきう》
緑の海
みだれゆく日光の音の上を……
とろけて眼をつぶる
(光と、波の……)
もやもやとして白い
帆船《ほぶね》と海鳥《かいてう》
……………
搖れる光に波は織られ
線は重さなり、流れ、くづれあひ
(濃厚な光と、波の……)

浮び出てはおぼ
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