遠くにわかれわかれに溺れてゐるものは知らず
目見えぬものは知らないけれども
ああ吾が筏はかかる中を行く
ああ吾が筏はかかる中を行く
充ちふくれて行く格鬪の力を感じながら
えいえいえいと乘り切つて行く
いつかはこの暴逆な大洋を自由自在に乘り廻し
あらゆる嵐
熱
みじめ一切を外にして
氷結、睡り、死一切を外にして
強烈異常の船一艘
作る力を感じつつ
太陽崇拜 ――八月十一日
ああ太陽よ
自分は君を愛す
君は一人であつて
あらゆるものに超越してゐる
あらゆるものを愛してゐて
常に君は孤獨である
君は絶え間もなく自轉してゐる
のびちぢみしてゐる
そして進んで行く
無限に生れて無限に走つて行く
君の運行する線は
空しいけれども
君はその何もない所を
ある如く走つてゐる
君は空しくぶらさがつてゐるのでない
絶えず内から
中心から
ぐるぐる力を出してはずんで行くのだ
ああ眩《まぶ》しい光を放して
空間から空間へ移つて行く
君よ
めげず
出し惜しまず
燃えてゆく
偉大な運行者よ
君はひとりだ
しかも萬人を愛してゐる
常に萬物の先きになつて
あらゆる暗い影に
君の光をさして行く
ああ君こそひとりである
唯だひとりである
自分は君を崇拜する
あらゆるものに先立つて運命をひらき
常にひとりであつて
とどまる所を知らない
君よ
その行く果てを知らない
君よ
ああかくの如き運命のなかにあつて
めげず力拔けせずたゆみなく行く君よ
ゆるみない君よ
うちからうちから全面に燃えかがやく君よ
なにものも助けなく
その出す力で空中に浮び
無限のなかに進みゆく君よ
自分は君を思ふとき
ちから湧く
嵐吹き
雨じとじと降り
みじめのどん底に沈んでゐる時でも
力湧く
斯くして自分は君を崇拜するのだ
嵐の上に張り充してゐる君の力を感ずるのだ
この嵐と鬪うて行く力を感ずるのだ
やがてこの嵐を壓倒して行く力を感ずるのだ
ああ萬物の先きになつて
常になに物も手をつけない先きにつける君よ
淋しいを淋しいとせずはずんで行く君よ
ひとりの君よ
内から光となつて全身ひかり輝く君よ
自分は君を崇拜し君を讃美し
君とわれとの愛を邪魔するあらゆるものを斬り伏せて
踏みこえて
君へ行く
ああ、あらゆる人間よ
心ある多くの兄弟よ
彼を崇拜し
彼を讃美して
共々に力合せて進まう
彼を崇拜し
彼を讃美して
あらゆる艱難慘苦を踏み越えて進まう
あらゆる邪魔一切を切り離して
偉大な彼の正體と
全面と
共々に手をとりあつて生き得る所へ進まう
自分は太陽の子である ――八月十一日
自分は太陽の子である
未だ燃《も》えるだけ燃えたことのない太陽の子である
今《いま》口火《くちび》をつけられてゐる
そろそろ燻《くす》ぶりかけてゐる
ああこの煙りが焔《ほのほ》になる
自分はまつぴるまのあかるい幻想《げんさう》にせめられて止まないのだ
明るい白光《びやくくわう》の原つぱである
ひかり充ちた都會のまんなかである
嶺《みね》にはづかしさうに純白な雪が輝く山脈である
自分はこの幻想《げんさう》にせめられて
今|燻《くすぶ》りつつあるのだ
黒いむせぼつたい重い烟《けむ》りを吐きつつあるのだ
ああひかりある世界よ
ひかりある空中よ
ああひかりある人間よ
總身眼のごとき人よ
總身|象牙彫《ざうげぼり》のごとき人よ
怜悧《りこう》で健康で力あふるる人よ
自分は暗い水ぼつたいじめじめした所から産聲《うぶごゑ》をあげたけれども
自分は太陽の子である
燃えることを憧れてやまない太陽の子である
ああ自分のぼんやりした夢を ――八月十六日
ああ自分のぼんやりした夢を醒してくれた自然よ
自分を生きたものにしてくれた自然よ
水先案内の如き君は
いま姿をくらまして
自分ひとりを殘してゐる
いま自分は舵をとる
帆を張る
石炭を抛り投げるシヤベルをとる
自分は絶え間なく君を夢みながら
君の叫んだ聲
自分のかつて叫んだ聲を
また叫ばんとして海に乘り出してゐる
ひかりを慕ふ歌 ――八月十六日
自分は暗い
自分はまづしい
自分はじめじめしてゐる
自分はひとりぽつちだ
自分は行きづまつた
自分は一時めもあてられなかつた
自分があかるさを求め
かしこさを求めるのは
斯くの如くであつた自分である
それらの奧にひそんでゐる心から
今叫び出したのである
斯くして自分は永久にひかりを求めてやまない
光の子である
日本の文學者に與ふる歌 ――八月十六日
※[#ローマ数字1、1−13−21]
詩人小説家といふ言葉は實に厭な言葉だ
そして諸君はそのあまりに詩人小説家らしい
自分は諸君と人間同志として握手する
自分は日常生活のごろごろだ
まるたんぼうだ
このまるたんぼうが途徹《とて
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