日に世間話をするのを、不都合だと思つて、少佐夫人にそつとその心持を話した。少佐夫人は只頷いて、熱心に鹿の肉を退治てゐる。
 フリイデリイケはアウグステをばさんが何を言はうと構はないで、女教師と話をしてゐる。女教師は、自分が尼寺に這入らうと思つた事があると云ふ話を、もう十一度繰り返してゐる。フリイデリイケは何遍でも面白さうに耳を傾けてゐて、この次の十二度目には、この色の蒼いパリイの女が、どうしてそんな決心をしたかと云ふ、その小説の片端をなりとも聞き出したいと思ふのである。そのうちスタニスラウスをぢさんの声を張り上げて何か言ふのが聞えたので、この対話は中止せられた。
 スタニスラウスはヨハン爺いさんに好意を表せなくてはならないやうに思つて、そのリフレエ服の裾を引き留めて囁いだのである。「おい。いつまで立つてもお前と己とは年が寄らないなあ。」
 爺いさんは返事をすることが出来なかつた。一つにはペエテル様のお詞が掛かつた難有さに感動して、物が言はれない。又一つには耳がひどく遠いので、何を言はれたか少しも分からないのである。
 スタニスラウスは少しせき込んで同じ事を繰り返したが、今度も老僕には聞
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