ますわ。
画家。それでもお前の頭に丁度好い工合に載せた花輪が無駄になって、あした載せたらもうそんな工合にはゆかないかも知れない。そういう事になったら、お前はどうするい。
モデル。そんならわたしは、花輪を頭に載せたままで、じっとしてそのあしたまで坐っていますわ。
画家。夜通しかい。
モデル。ええ。
画家。坐っていて居眠なんぞは出来ないのだぜ。居眠りなんぞをすると花輪が歪《ゆが》むからな。
モデル。居眠なんかしませんわ。
画家。折角そうしてくれても、翌日になって見れば、その花が萎《しぼ》んでいるかも知れない。
モデル。(悲し気に。)え。ほんにそうでございますね。萎んだ花は。
画家。(背中を向けつつ。)役には立つまい。
モデル。それはそうでございますとも。(間。娘はやはり花をいじりいる。)お嬢さんはどうなさいましたの。まだいらっしゃいますの。
画家。お嬢さんかい。(突然立ち留り、娘を屹《きっ》と見、早足に娘の傍《そば》に寄り、両手を娘の肩に置き、娘を自分の方へ向かせ、目と目を見合す。)マッシャお前かい。(娘は呆れて目を見張る。)お前はいつもここにいるのだな。(娘は何事とも分らぬらしく、一歩退
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