癪《かんしゃく》を起したる様子にて、その紙を引裂く。さて外の紙を取りてかき始め、暫くしてかき止《や》め、またその紙を引裂く。さて暫く空《くう》を睨《にら》みいて、忽ち激しき運動にて両手を顔に覆い、両肱《りょうひじ》を机に突き、死人の如く動かずに坐《すわ》りいる。○暫くありて、戸口よりモデル娘|入《い》り来《きた》る。徐《しずか》にためらいつつ部屋の内に進み、始終物を怖《おそ》るる如く四辺《あたり》を見廻す。娘は片手に伊太利亜種《イタリアだね》の赤き翁草《おきなぐさ》の花の大束を持ち、片手に柑子を盛りたる籠《かご》を持ちいる。さて画家の、己《おの》れの方に背中を向けて、先《さき》の姿勢を取りおるを見付け、驚き、徐《しずか》に。)
モデル。今日《こんち》は。(ひっそりとして物音無し。娘は徐《しずか》に煖炉《だんろ》に歩み寄り、その上なる素焼の瓶《びん》を取りて絵具入の箪笥の上に据え、それに翁草の花を挿す。その間《あいだ》に画家は少し身を動かし、娘を見る。さて立ち上らんとしてまた腰を落し、女のする事を見ている。娘は忽ち画家の己《おの》れを見るに心付き、詞急に。)お休《やすみ》なすったの。(間
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