事との間には、遠い道のように、年月というものがあるのでございますからね。こんな世界に帰って来て見れば、あなたとわたくしとはこれでお別に致さなくてはなりませんのでございます。
画家。(煩悶して。)そんならどうでも別れるというのですか。
令嬢。お別だけがこの世界へ帰ってからのものに残っていたのでございますわ。別なんというものは、時間に属するものですから、あの島ではそんなものはなかったのでございます。(間。)
画家。(立ち上る。)わたくしの方では、きのうの事は幕明《まくあき》の音楽で、忙《せわ》しい調子の中へ、あらゆるモチイヴを叩き込んだものに過ぎないので、これからが本当の曲になると云いたいのですが、あなたには、何んと云ってもそう考えて下さる事が出来ないのですね。
令嬢。これから本当のオペラにしようと仰ゃるのでございますか。
画家。(頷《うなず》く。)ええ。これから本当のアクションにしようというのです。
令嬢。(微笑む。)なぜわたくしがオペラと申しましたのを、わざわざアクションという詞にお換《かえ》あそばしたの。もしこの跡を続けましたら、それこそオペラでございますわ。本当のお芝居でございます
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