は何もかもあなたに縦《ゆる》してしまいましたの。ただ二人の間に子供を持つ事が出来ないばかりでございますわ。(画家|欷歔《ききょ》す。)あなたがそうしておしまいなさったのでございますから、為様《しよう》がございませんわ。
画家。(小声にて。)それでも。
令嬢。ええ。
画家。どうしても今一|度《ど》、現実の世界で。
令嬢。いいえ。それは致さない方が宜《よろ》しゅうございますの。無理に致しましても、その製作は失敗に終りますわ。
画家。ああ。
令嬢。あなたにはそんな心持は致しませんですか。わたくし共二人は、遠い遠い無人島《むにんとう》で、何年も何年も暮しましたのでございますわ。
画家。(頭《あたま》を擡《もた》ぐ。)はあ。
令嬢。そして愛の限りを味わって幾度《いくたび》も幾度も接吻《せっぷん》いたしましたの。
画家。それがもう出来ないんですか。
令嬢。(微笑む。)ええ。出来ませんわ。
画家。なぜでしょう。
令嬢。もう無人島《むにんとう》から帰って来たのでございますもの。帰って来て見れば、ただの世界で、物が重りを持っていたり、日がさせば影を落したり致しますのでございますからね。そして出来事と出来
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