わ。わたくしはそれが怖いと存じたのでございます。
画家。まあ。そんな事までいつの間に考えていたのですか。
令嬢。ゆうべ夜通し考えていましたの。(間。)
画家。(あちこち歩き始む。)何もかもノンセンスだ。(間。また歩きつつ。)不思議だ。
令嬢。ええ。不思議でございますとも。この不思議の中に立って、踏み迷わずに、しっかりしていなくってはならないのでございますわ。(画家立ち留る。)ええ。大抵の人なら迷ってしまうかも知れませんわ。そういたして、目のくるめくような楽の急調を、常の日に調べようと致すのでございましょう。しかし舞の伴奏の楽は、ただ歩く時の足取には合うはずがございませんの。不調和な、馬鹿らしいものになり勝でございますわ。お互にそんな事は致したくないのでございますからね。お互に兎に角、翼《つばさ》のある情緒《じょうちょ》を持っている人間なのでございますからね。
画家。そこまで深く考えて見たのですか。
令嬢。ええ、ええ。そんな事は、あなたの方では考えて下さらないという事が、わたくしには分っていましたの。年上でございますからね。(画家|科《こなし》あり。令嬢|徐《しずか》に。)ええ。年上でご
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