どうだい。
モデル。(小声に。)薔薇《ばら》ではどうでしょう。
画家。何でも好い。お前ならとんちんかんな事はしないから。お嬢さんは丁度お前位のブロンドな髪をしているのだ。その積《つもり》で見立ててくれい。
モデル。それでは髪に挿す花ですね。
画家。(じれった気に。)髪に挿されれば、挿させても好いのさ。つまり花が上げたいのだ。(間。娘|行《ゆ》かんとす。)それからなあ。ついでに少し果物を取ってきてくれい。春ばかりでは物足りない。夏もいるからなあ。柑子《こうじ》が好い。よく真赤《まっか》に熟したのを買ってきてくれい。南国の甘い夏を包んでいるような柑子が好い。頼むよ。二時間ほどすれば来るんだな。
モデル。ええ、ええ。それでは花と柑子ですね。(戸を開《ひら》く。)
画家。持って来たらな。構わずにずっと這入って来いよ。お嬢さんを見せてやるから。
モデル。(やや敵対の語気にて。)わたしがお目にかからなくちゃあならないのでしょうか。
画家。なぜ。己が見せたいのだから、好いじゃあないか。
モデル。ええ、ええ。それでは花と柑子とを持って参りますよ。
画家。うむ。さようなら。(娘退場。画家はゆるやかに部屋
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