の空《そら》にて。)相変らず踊やなんぞで夜を更かすのかい。
モデル。(悲し気に。)ええ。年が年中ですわ。
画家。(笑う。)ふん。体が台なしになるよ。さようなら。
モデル。さようなら。(急ぎ足に退場。)
画家。(為事机の前に立ち、紙巻を喫みながら、部屋の内を見廻す。娘が戸を開くる時、詞急に。)おう。掃除をしてくれたのに礼も直《ろく》に言わなかったっけ。それから何んだっけ。何時頃《なんどきごろ》にこの前を通るかい。
モデル。ここを通るのですか。お午《ひる》にはおっ母《か》さんの処へ帰るのですから、もう二時間もすれば通りますわ。
画家。二時間と。丁度好い。その時少し花を買って来てくれないか。どうだ。そうしてくれるか。
モデル。(たゆたいつつ。)何んの花でございますの。
画家。さっき話したお嬢さんに上げるのだ。己の処には何んにもありゃしない。自分で買いに行くと、留守に来られるかも知れない。ここの婆《ばあ》さんを頼んで使にやると、お極《きま》りでにおいあらせいとうを買って来やがる。花といえばきっとあれを買うのだ。まるで固定妄想《こていもうぞう》だ。何か気の利いた花を見立てて買って来てくれないか。
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