持った情熱の激しさを、今は振り返るような気持であった。
(春先からの徴候が非道《ひど》くなり、自分はこの頃病的に不活溌な気持を持てあましていたのだった。)
「あの辺が競馬場だ。家はこの方角だ」
自分は友人と肩を並べて、起伏した丘や、その間に頭を出している赤い屋根や、眼に立ってもくもくして来た緑の群落のパノラマに向き合っていた。
「ここからあっちへ廻ってこの方向だ」と自分はEの停留所の方を指して言った。
「じゃあの崖《がけ》を登って行って見ないか」
「行けそうだな」
自分達はそこからまた一段上の丘へ向かった。草の間に細く赤土が踏みならされてあって、道路では勿論なかった。そこを登って行った。木立には遮《さえぎ》られてはいるが先ほどの処《ところ》よりはもう少し高い眺望があった。先ほどの処《ところ》の地続きは平にならされてテニスコートになっている。軟球を打ち合っている人があった。――路らしい路ではなかったがやはり近道だった。
「遠そうだね」
「あそこに木がこんもり茂っているだろう。あの裏に隠れているんだ」
停留所はほとんど近くへ出る間際まで隠されていて見えなかった。またその辺りの地勢
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