續けさせておき度くなかつた。
 とめてやらうと思つて獨でに歩調を速めた時中學生等がやつと彼等をひき離した。
 小學生の方は直ぐに、顏を少し伏せる樣にして走り去つた。――それも片足だけでけんけん[#「けんけん」に傍点]をしつゝ一種踊る樣な恰好を身體につけながら。
 私はその瞬間そんな恰好をせずにゐられないその兒の氣持が、私自身の氣持の樣に、ぐん[#「ぐん」に傍点]と胸へ來た。
「敗けて逃ぐるのんか。何や、泣てやがる。」とそのシヤツの兒がその背後から叫んだ。
 そしてそこに立つて見てゐた、その小學生の連れらしい、それもやはり學校歸りらしく鞄を下げた二三人が、獨りで走り去つた友達を追ふともなく、その後からその方角へ歩いて行つた。
 ――それは時間にすれば僅か二分かそこらのちよつとしたことだつた。
 然し私にはそれがびん[#「びん」に傍点]と響いた。
「男らしさ」への義理立てだけといつた風に振り上げられたその兒の弱々しい拳や、歪められた顏や、殊にけんけん[#「けんけん」に傍点]で踊る樣にした恰好が何度となく眼に浮んで來た。
 その兒がいぢらしくて堪らなかつた。
 何だかその兒の顏が私の一番末の
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