矛盾の樣な眞實
梶井基次郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)こんなことを云つて戸外《そと》から

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#感嘆符二つ、1−8−75]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)むら/\とした。
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「お前は弟達をちつとも可愛がつてやらない。お前は愛のない男だ。」
 父母は私によくそ[#「そ」に「(ママ)」の注記]う云つて戒めた。
 實際私は弟達に對して隨分突慳貪であつた。彼等を泣かすのは何時でも私であつた。彼等に手を振り上げるのは兄弟中で事實私一人だつた。だから父母のその言葉は一應はもつともなのであるが私は私のとつてゐた態度以外にはどうしても彼等が扱へなかつた。
 私はどちらかと云へば彼等には暴君であつた。然しとにかく弟達はそれの或程度迄には折れ合つて、私對弟等の或る一定した關係の朧ろな輪廓が出來てゐた。
 然しその標準から私は時々はみ出たことをした。――と云ふよりも事實いけないと思ふ樣なことをした記憶をもつて
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