またあまり堪へ切れなくなると、私はむらむらと前後を忘れて、「馬鹿! また嘘を云つてる。」などゝ怒鳴りつけずにはゐられなくなる。――つまり私はその時、情ない氣持で歸つて來た弟にこれを浴せかけたのだつた。
「またお前も意氣地なしだ。それで默つてゐるつてことがあるかい。何故一つでも撲り返さなかつたのだ。」
私は弟の苦しい胡麻化しをその場合許せばよかつたのだつたが、その卑怯な嘘を感じると私は意地惡くなつて、ついそんなつかぬ[#「つかぬ」に傍点]ことを云つてしまつたのだつた。一つはあまりの口惜しさから。
「……でも石を一つ投げてやつた。……」
その時私は、その聲の弱さに、また顏の頼りなさに、私の嫌な嫌な、眞赤な嘘の證據を見たのだつた。
私の先程から積つてゐた不愉快は、それに出喰はすと新たに例の不愉快を加へて一時にはづん[#「はづん」に傍点]で來た。そして猛烈なはけ[#「はけ」に傍点]口を求めた。私はこの壓力で爆發する樣に「馬鹿※[#感嘆符二つ、1−8−75]」をやつてしまつた。
私はこれを思ひ出すと、その時の弟が可哀さうで堪らなくなる。本當にそ[#「そ」に「(ママ)」の注記]うだ。
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