は遠い空中にかゝつてゐる。そして私の窓の下に眞白い眞夏の花の茉莉花は咲き匂つてゐた。
寐てゐて聽く蜩の聲。それは三田文學に出てあつた葛目氏の短篇亡母と蜩を讀んでゐた私に感懷は深かつた。そして枕邊をヒタヒタとゴム足袋で石段を下りる人の足音が響いてくるのだ。――私はまた一時間か二時間の睡に入る。
曉を一番早く知らせる蜩は、夕方にも一番早くに鳴く。晝顏は雜草のなかに凋みはじめ、打水された板塀からは水がぽた/\落ちてゐる。飯倉、植木坂。街で疲れて來てもそんな時刻に遇へば私の心も全く蘇るやうに思へた。
四日には逗子の飯島が急にまた腎臟が惡くなつて東京へ歸つて來た。去年の冬以來健康だつた外村もこの夏は病氣だつた。然し中谷小林は共に緑に圍まれた郊外の夏に籠つて、シツラーやリラダンに餘念なく、いゝ生活をしながら今度の原稿を齎らして呉れた。それは私の大きな喜びだつた。私を手傳つて呉れてゐた忽那も六日には郷里の方に立つて行つた。歸省中の同人は各々郷里から間違ひなく同人の義務を果してくれ、いい消息を呉れ、見舞つてくれた。ほんたうに青空はどんなにいゝ同人を持つてゐることか、私はつくづくさう思ふことがあつ
前へ
次へ
全4ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
梶井 基次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング