のなかへ下りて来るやよみがえったように活気づく。私の脛《すね》へひやりととまったり、両脚を挙げて腋の下を掻《か》くような模《ま》ねをしたり手を摩《す》りあわせたり、かと思うと弱よわしく飛び立っては絡み合ったりするのである。そうした彼らを見ていると彼らがどんなに日光を恰《たの》しんでいるかが憐《あわ》れなほど理解される。とにかく彼らが嬉戯《きぎ》するような表情をするのは日なたのなかばかりである。それに彼らは窓が明いている間は日なたのなかから一歩も出ようとはしない。日が翳《かげ》るまで、移ってゆく日なたのなかで遊んでいるのである。虻や蜂があんなにも溌剌《はつらつ》と飛び廻っている外気のなかへも決して飛び立とうとはせず、なぜか病人である私を模《ま》ねている。しかしなんという「生きんとする意志」であろう! 彼らは日光のなかでは交尾することを忘れない。おそらく枯死からはそう遠くない彼らが!
日光浴をするとき私の傍らに彼らを見るのは私の日課のようになってしまっていた。私は微《かす》かな好奇心と一種|馴染《なじみ》の気持から彼らを殺したりはしなかった。また夏の頃のように猛《たけ》だけしい蠅捕り蜘蛛
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