て来た。容貌をかえた低地にはカサコソと枯葉が骸骨《がいこつ》の踊りを鳴らした。
そんなとき蒼桐の影は今にも消されそうにも見えた。もう日向とは思えないそこに、気のせいほどの影がまだ残っている。そしてそれは凩《こがらし》に追われて、砂漠のような、そこでは影の生きている世界の遠くへ、だんだん姿を掻《か》き消してゆくのであった。
堯《たかし》はそれを見終わると、絶望に似た感情で窓を鎖しにかかる。もう夜を呼ぶばかりの凩に耳を澄ましていると、ある時はまだ電気も来ないどこか遠くでガラス戸の摧《くだ》け落ちる音がしていた。
二
堯は母からの手紙を受け取った。
「延子をなくしてから父上はすっかり老い込んでおしまいになった。おまえの身体も普通の身体ではないのだから大切にしてください。もうこの上の苦労はわたしたちもしたくない。
わたしはこの頃夜中なにかに驚いたように眼が醒める。頭はおまえのことが気懸りなのだ。いくら考えまいとしても駄目です。わたしは何時間も眠れません。」
堯はそれを読んである考えに悽然《せいぜん》とした。人びとの寝静まった夜を超えて、彼と彼の母が互いに互いを悩み
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