太郎と街
梶井基次郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)敷布《シーツ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)子供の時の乘物づくし[#「乘物づくし」に傍点]を
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秋は洗ひたての敷布《シーツ》の樣に快かつた。太郎は第一の街で夏服を質に入れ、第二の街で牛肉を食つた。微醉して街の上へ出ると正午のドンが鳴つた。
それを振り出しに第三第四の街を歩いた。飛行機が空を飛んでゐた。新鮮な八百屋があつた。魚屋があつた。花屋があつた。菊の匂ひは街へ溢れて來た。
呉服屋があつた。菓子屋があつた。和洋煙草屋があり、罐詰屋があつた。街は美しく、太郎の胸はわくわくした。眼は眼で樂しんだ。耳は耳で樂しんだ。鼻も敏捷な奴で、風が送つて來るものを捕へては貪り食つた。
太郎は巨大な眼を願望した。街は定まらない繪畫であつた。幻想的なといへば幻想的な、子供だましのポンチ繪には、土瓶が鉢卷をして泳いでゐたり、日の丸の扇で踊つてゐたりするのがあるが、ブーブー唸つて走つてゐる自働車などを見れば吹き出したくなる位だ。菓子屋のドロツプやゼリビンズは點描派《ポアンチユリ
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