スト》の畫布の樣だし、洋酒瓶の竝んだ棚はバグダツドの祭の樣だ。
 飛行機がまたやつて來て、あたりは樹木に埋つた公園であつた。太郎は十錢を拂つて動物園へ入つた。此所なんぞ入場料十圓也と觸れ出せば、紳士淑女は雜鬧し、雜誌は動物園の詩で埋まるに違ひない。水族館まで見て來ると、太郎はたうとう熱い溜息を洩らした。そこを出ると知らない街へ入つた。華かな夕暮が來て、空は緋の衣で埋まつた。それを目がけて太郎は歩いた。後ろから月が昇つたらまたその方へ歩く積りだ。いよいよ夜がやつて來て、先づ全市の電燈をつけた。三日月があがつたと思つたら直ぐ沈んだ。星が出て來ては挨拶をし、出て來ては挨拶を交した。太郎も帽子が振りたくなつた。
 洋館の三階の窓。そこからは何がみえるのだらう。若い男が思ひに沈んだハモニカを吹いてゐた。塗料の匂ひがする、醫療器具屋の前だ。女の兒が群れて輪になり、歌を歌つては空へ手を伸した。子守娘が竝んでゆく。燒鳥屋は店を持ち出した。その下へはもう尨犬がやつて來てゐる。
 太郎は巨大な脚を願望した。また思つた。凡そこの地球程面白い星はあるまい。鞠をかゞる青い絲や赤い絲の樣に、地球をぐるぐる歩いてゆ
前へ 次へ
全5ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
梶井 基次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング