は充分かき亂され、神祕は平凡化され、引き緊つた文體はルーズになつてしまつた。然しそのある程度はこんな試みとして避け難い。
 妻が茶碗をぶつつけるあたりから、おゝこの音を聞け、の邊までは原作と文字通り同樣である。原作に於て、この部分は、實に霹靂を聞く如き大音響をたてる所である。毬をつく音、靴の響き、飯を食ふ茶碗の音、次にこの大音響、そして永遠に微かな音も立てなくなる、この推移は、素晴らしい響きの藝術である。
 本號で川端康成氏の作品に就て何か書かうと思つてゐた心組みが、幾屈折してこんなものを書いてしまつた。川端氏に對してはその作品を汚したことを幾重にもお詫びしたい。[#地から6字上げ]六・十九
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底本:「梶井基次郎全集 第一巻」筑摩書房
   1999(平成11)年11月10日初版第1刷発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:高柳典子
校正:小林繁雄
2002年1
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