ほんとうらしい。
 そんなに思っているうちにも、勝子はまたこっぴどく叩きつけられた。痩我慢を張っているとすれば、倒された拍子に地面と睨《にら》めっこをしている時の顔付は、いったいどんなだろう。――立ちあがる時には、もうほかの子と同じような顔をしているが。
 よく泣き出さないものだ。
 男の児《こ》がふとした拍子にこの窓を見るかもしれないからと思って彼は窓のそばを離れなかった。
 奥の知れないような曇り空のなかを、きらりきらり光りながら過《よぎ》ってゆくものがあった。
 鳩《はと》?
 雲の色にぼやけてしまって、姿は見えなかったが、光の反射だけ、鳥にすれば三羽ほど、鳩一流のどこにあて[#「あて」に傍点]があるともない飛び方で舞っていた。
「あああ。勝子のやつめ、かってに注文して強くしてもらっているのじゃないかな」そんなことがふっと思えた。いつか峻《たかし》が抱きすくめてやった時、「もっとぎうっと」と何度も抱きすくめさせた。その時のことが思い出せたのだった。そう思えばそれもいかにも勝子のしそうなことだった。峻は窓を離れて部屋のなかへ這入《はい》った。

 夜、夕飯が済んでしばらくしてから、
前へ 次へ
全41ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
梶井 基次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング