手を出す。その手も引っ張られる。倒された子は起きあがって、また列の後ろへつく。
 見ているとこうであった。男の児が手を引っ張る力加滅に変化がつく。女の子の方ではその強弱をおっかなびっくりに期待するのがおもしろいのらしかった。
 強く引くのかと思うと、身体つきだけ強そうにして軽く引っ張る。すると次はいきなり叩きつけられる。次はまた、手を持ったというくらいの軽さで通す。
 男の児は小さい癖《くせ》にどうかすると大人の――それも木挽《こび》きとか石工とかの恰好そっくりに見えることのある児で、今もなにか鼻唄でも歌いながらやっているように見える。そしていかにも得意気であった。
 見ているとやはり勝子だけが一番よけい強くされているように思えた。彼にはそれが悪くとれた。勝子は婉曲《えんきょく》に意地悪されているのだな。――そう思うのには、一つは勝子が我《わ》が儘《まま》で、よその子と遊ぶのにも決していい子[#「いい子」に傍点]にならないからでもあった。
 それにしても勝子にはあの不公平がわからないのかな。いや、あれがわからないはずはない。むしろ勝子にとっては、わかってはいながら痩我慢を張っているのが
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