を越した、兄の祖母で、勝子の曽祖母にあたるお祖母《ばあ》さんが、勝子を連れて川へ茶碗を漬《つ》けに行った。その川というのが急な川で、狭かったが底はかなり深かった。お祖母さんは、いつでも兄達が捨てておけというのに、姉が留守だったりすると、勝子などを抱きたがった。その時も姉は外出していた。
 はあ、出て行ったな。と寝床の中で思っていると、しばらくして変な声がしたので、あっと思ったまま、ひかれるように大病人が起きて出た。川はすぐ近くだった。見ると、お祖母さんが変な顔をして、「勝子が」と言ったのだが、そして一生懸命に言おうとしているのだが、そのあとが言えない。
「お祖母さん。勝子が何とした!」
「……」手の先だけが激しくそれを言っている。
 勝子が川を流れてゆくのが見えているのだ! 川はちょうど雨のあとで水かさが増していた。先に石の橋があって、水が板石とすれすれになっている。その先には川の曲がるところがあって、そこはいつも渦が巻いている所だ。川はそこを曲がって深い沼のような所へ入る。橋か曲がり角で頭を打ちつけるか、流れて行って沼へ沈みでもしようものなら助からないところだった。
 兄はいきなり川
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