のである。さう私は考へる。
「光について」のなかにはわれわれにとつて噛み割り難い數多の Symbol と Metaphor がある。その間に、傷ついた魚が深く水中に沒して、ときどきその苦しんでゐる身の在所をキラ・キラ、と光らすやうに、生命、死、光明の Symbol が閃めく。
「皮膚の經營」「戀愛の結果」「灰」は暫時私には不可解である。
「光について」の六齣の詩も僅かにその片鱗が理解出來るにとどまる。

[#天から2字下げ]壁のうへの蟻の凍死、焔のつらら。

 この一行の詩は私をしてボオドレエルの「秋の歌」の一節を思ひ出さしめる。

[#ここから2字下げ]
冬のすべては私の身内に迫つて來る。――それは、苦痛、憎惡、戰慄、強ひられた苦役や恐怖。
そして極地のうへのかの北方の太陽のやうに、
私の心臟は直ぐにも一箇の石となつてしまふであらう、凍結し灼然せる。
[#ここで字下げ終わり]

 勿論彼の念頭にこの詩はなかつたのである。私はその契合に驚く。しかもこの詩は最後の凝結を示してゐる。
「花」「人間」「光について」(50[#「50」は縦中横]頁)の三つの詩も解し難い。そして私はこれらの謎のや
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