終始この運動の尖端に立つて戰つてゐた。身をもつて。彼ははじめから他の人々のやうに一枚の古い衣裳も纏つてはゐなかつた。カモフラージユなしで戰つたのである。最も新しい、「詩とは思へないもの」で身を曝したのである。その彼の威力ある屹立は、だからいつも人々のブツブツいふ聲でその脚もとを洗はれてゐた。また彼はいつも最も簡單な言葉で彼の教理を説いてゐた。同じことを繰返し繰返しして云つてゐた。これは自ら恃むことに厚く最も勇敢な人々のみの爲し得ることである。――かくの如く彼は戰つて來た。身をもつて。鐵のやうな意志をもつて。
 彼の詩の嚴然とした詩型が彼の「意志」によつて規定されてゐるといふことについては、數多の論證を必要とするやうである。また少しの論證をも必要としないやうである。私は單にこの獨斷を掲げるにとどめて、次に「戰爭」の批評に移る。批評とは云ふものの私は小説家であつて自分の思つたことを最も平凡に披瀝するに過ぎない。
「戰爭」は三つの部分に分れてゐる。――戰爭。光について。檢温器と花その他。この最後の部分は彼の第二詩集「檢温器と花」から再録されたもので、私はまづこれに數言を費した後、第三詩集の第
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