《くく》ってそのままにしているのだろうか。それはこういう動物の図々しいところでもある。彼らは人が危害を加える気遣《きづか》いがないと落ち着き払って少しぐらい追ってもなかなか逃げ出さない。それでいて実に抜け目なく観察していて、人にその気配が兆《きざ》すと見るやたちまち逃げ足に移る。
夜警は猫が動かないと見るとまた二足三足近づいた。するとおかしいことにはニつの首がくるりと振り向いた。しかし彼らはまだ抱き合っている。私はむしろ夜警の方が面白くなって来た。すると夜警は彼の持っている杖をトンと猫の間近で突いて見せた。と、たちまち描は二条の放射線となって露路の奥の方へ逃げてしまった。夜警はそれを見送ると、いつものようにつまらなそうに再び杖を鳴らしながら露路を立ち去ってしまった。物干しの上の私には気づかないで。
その二
私は一度|河鹿《かじか》をよく見てやろうと思っていた。
河鹿を見ようと思えばまず大胆に河鹿の鳴いている瀬のきわまで進んでゆくことが必要である。これはそろそろ近寄って行っても河鹿の隠れてしまうのは同じだからなるべく神速に行なうのがいいのである。瀬のきわまで行ってしまえば今度は
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