變人を確かめる (八木東作氏)
最初「はあ、あの氣持を書いてゐるな」と思つたぎり讀み捨てておいたものを此度また讀みかへして見た。讀みかへしてまた讀みかへした。その度に作者の前書に書いてゐることの意味が段々強くなるのを知つた。
その聲低く語られる物語は、その一見他奇のない文體にも似ず、非常に緻密に物されてゐる。書いてあることに無駄がないといふより、書いてあることの重要さが大きいのだ。例へば六七頁の「私はポケツトから回數券を取出した。すると女は、それを見てすぐ同じ樣に帶の間から回數券を取出した。そして一枚切りとつた。それで私は、自分のだけ一枚切り取つて殘りをポケツトに返した。そして、切り取つた一枚を指の間に挾んで持ちながら女の手もとを見ると、また同じやうに指の間に挾んでゐた。もはやどこでも一緒におりて來るものときまつた。」はその瞬間の主人公の緊張した氣持が、表面へ出して來るよりも餘計效果的に讀者に觸れて來る。さう云つた風である。そんな風に作者は主人公の女に對する氣持の起伏の消息や、陰影に富んだ然も純な性格を、語るより以上に感ぜ[#「感ぜ」に傍点]しめてある。この話のどこに
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