恥あれ! 恥あれ! かかる下等な奴等に! そこにはあらゆるものに賭けて汚すことを恐れた私達の魂があつたのだ。彼等にはさういふことがわからない。これは實に口惜しいことだつた。それから何年も經つてからであつたが、ある第三者からふとそのことに觸れられた。場所も憶えてゐるが、それは大學の池のふちである。――その瞬間、ながらく忘れてゐたその屈辱の記憶が不意に胸に迫つて來て、私の顏色が見る見る變つたので、何にも知らないその人を驚かしたことがあつた。こんな屈辱は永らく拭はれることのないものである。
 ついでだからそのときの出し物を思ひ出して見よう。
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チエホフの 「熊」      一幕
シングの  「鑄掛屋の結婚」 一幕
山本有三の 「海彦山彦」   一幕
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「熊」の老僕にはあとで「青空」の同人になつた小林馨がなつた。小林は東北の生れで東北なまりが、その役を實にうまく生かした。借金取にはあとで「眞晝」を作つた楢本盟夫がなつたが、楢本は、ぷん/\怒る男なので、またその短氣なせりふが打つてつけで、今思ひ出しても思はず笑へて來るほど面白かつた。シングの「鑄掛屋
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