茂の數篇位ゐで、演出は――この演出に就て語るのは實にたくさんの記述が要る。私達でやる筈になつてゐた試演會は校長の禁止で、公演の前日に迄もなつてゐて、それを思ひ切らなければならない破目になつたのである。今でこそそのことはこんなにもあつさりと書けるのであるが、その當時その打撃は私達の生活をまるで打ちのめしてしまつた。校長からはその代償といふ譯ではなかつたらうがとにかくいくらかの金が出たのであるが、それはたしか新聞へ出す中止廣告の廣告代にも足らなかつた。そのうへ、大道具小道具に要した金、練習場、會場に要した金、プログラムや切符に要した金、それらは會員達が何ヶ月もかかつて積立てた準備金の到底補充出來る額ではなかつた。中止に氣落ちした面々がまた心を取直して何の希望もない經濟的なまた勞力的なあと片付けを默々とやりはじめたときの氣持は今思ひ出しても涙が零れる。それのみか――これはだん/″\あとになつて耳に入つて來たことではあるが――私達の公演を援けたフロインデインに就て下等な憶測が、學校當局ではどうであつたか知らないが、生徒達のなかに働らいてゐたらしいのである。これには胸が煮えたぎる程口惜しかつた。
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
梶井 基次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング