裸女の畫
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)踞《しやが》んで

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]
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 シヤガールの裸の女の繪を床の間においた。こんないい繪をわたしが持つてゐるのではない。『近代美人傳』の口繪を拜借した某氏から、この繪も添へて貸してくださつたのを、丁寧に床の間においたのだつた。
 送つて來てくれた人たちに、門口で挨拶して主人が歸つて來たのは、もう夜更けだつたが、室にはいるとすぐに、床の間の繪に目を走らせて、誰のです、と叫んだ。
 ああ、シヤガールね、どうも並々の畫ぢやないと思つた。
 と、さほど大きくもない額の前に跼《しやが》んで眺め入つてゐる。
 仕樣のないものだね、藝術《わざ》といふものは――と呟いた。
 それからの毎日、拜借してゐる期間だけでも、眺めてゐるわたしたちの藝術的良心は高められ、充《み》ちたりてゐたが、暮から春へかけて、來客はかなり多いのだが、他のたれもがなんとも
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