した。新聞の競争は莫迦《ばか》々々しいほど激烈で、そのために、伝えなくてもよいほどの事までが、毎日々々、大きな活字の見出しになって、何か、非常な注意をひかなくってはならない大物かのように、彼女の病床でのことや、疵《きず》の経過のことまでが、一々洩れなく伝えられた。そのためには、余沫《よまつ》をうけて書かでもがなの人のことや秘事までが出されたりして、余計にその事件に関係をもった当事者たちを苛立《いらだ》たせ迷惑をかけもした。新聞記者連の競争の昂奮《こうふん》が一般の人たちにまで波動し、そして有爵者たちの群《むれ》を震動させた。そして後には米国から来る活動写真の連続もののように、鎌子を取巻く人たち――病院の人たち――新聞記者――記者同志打ち――というようなものになって、病院側や、芳川家がらみの方では何事も極力秘密に運ぼうとし、記者たちはそれを嗅出《かぎだ》す事に勉《つと》めながら、仲間の鼻毛を抜こうとするようにまでなった。鎌子の退院の日は何日? その後は? その後は、というように進んでいって、新聞社側の方では見張りにおさおさ手落ちなく、どんな風にして退院させようとも見現わさずにはおかない準
前へ 次へ
全40ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング