上の責だけだと断定されていた。
 ただここに聞逃《ききのが》すことの出来ないのは、宮内省の法令に精通せる某大官|曰《いわ》くということである。その人ははばかりもなくこう言っている。
[#ここから2字下げ]
「今回芳川家に起ったような事件に関しては、別に華族懲戒令というものがあって、もしその事件が訓戒すべきものならば宮内大臣の独断をもって、また譴責《けんせき》すべきものならば委員会の決議をへて取扱うことになっている。即ち芳川事件がもし懲戒すべき性質のものならば右の懲戒令によることだろうと思うが、それにしても従来この事件に比するものは華族間に決して例が少なくない。ただこんどはああして世間に知れ渡ったというにすぎぬから、従来の例から推考すると別に懲戒に附するほどのことはあるまいと思う」
[#ここで字下げ終わり]
というのである。
 明子《はるこ》氏の説は此処に来て意義あるものとなった。全く鎌子はそうした階級の迷夢を醒《さ》まさせる犠牲になったのである。そしておなじような位置に置かれてある人たちに、たしかに何らかの印象を与え、覚醒をうながしたことはいうまでもない。
 鎌子を生ました老伯爵のその
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