たは禁錮《きんこ》に処罰するのが相当だが、裁判所もこれまで充分に社会的制裁を加えられたものに対し、この上法律上の制裁まで加えまいと思うと述べた。
 同族間ではまた非常な非難で、宮内省ではどう処分するかという議論が沸騰した。華族監督の任にある宮内省では、芳川伯爵家が鎌子に対しどんな処分をとるかと注目していた。その上で、断乎《だんこ》たる処分に出ようとする意嚮《いこう》をほのめかした。やむをえない場合の手段とは、華族令の規程に則《のっと》る、宗秩寮《そうちつりょう》審議会に附して厳重な審議の上、処分法を講じて御裁可を仰ぎ、宮内大臣が施行するというのである。無論軽くてはすむまいとされたが、その前に伯爵家で適当な処置を取れば不問にしようとするのだと伝えられた。けれども、それは寛治氏から離婚をするだけではすまされない。伯爵家から籍を削除《のぞ》けば、そこではじめて平民になるのゆえ自然宮内省は管轄外となるのだとも噂された。
 千葉県警察部長の談では、警察官吏、及《および》警察医の報告によれば合意の心中であった事が明確ゆえ、たとい相手方の一人が仕損じて生存していたとて何らの犯罪も構成しない。ただ道徳
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