に亙《わた》り、放蕩児《ほうとうじ》が金を持ち、親や兄を捨て旅行して遊蕩に耽《ふけ》り、悉皆《すっかり》費消し尽して悲惨なる目に遭《あ》い、改心するまでを詠《よ》んだもので、鎌子夫人の身の上に似通う点があるから面白い――と言っている。面白いという言辞はかなしい。
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いざふるさとへかへりゆかん――
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という文句があるとて、彼女はのめのめと、父の邸《やしき》へ帰ってゆこうといってその節を唄《うた》ったのではない。彼女が父と呼んだのは天の父をさしたのである。彼女が唄った故郷は麻布の家ではなくて、霊の故郷、天国なのである。彼女は知っていたのだ。彼女の魂は彼れの霊に呼ばれていることを感じたのだ。

 鎌子は自殺|教唆罪《きょうさざい》だがとある法曹《ほうそう》大家は談じた。教唆は精神的関係、即ち脅迫して承諾させ、口説《くど》いて同意をさせたものを含むのであるゆえ、鎌子がさきに線路に飛込み、倉持がその後を追っているから地位資格上倉持はむしろ殉死したのだ。であるから法律上から見ると一種の脅迫的自殺と見なし、二百二条を適用して、六カ月以上七カ年以下の懲役ま
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