のはよいが、あんまり引込まれすぎてしまって――それは全く、よくもこう探りだされたものであると思うほど明細で、一事一物もそのことに関係のあるものについては、洩《も》れなく活字にされるが、けれども、それは表面だけの事実ではなかろうか。すくなくも事の真相、死のうとした二人よりほかに知らない秘密は全くの無言だ。その一人は絶息し、その一人は死の手から、ほんのこの世へ取帰《とりもど》されたというだけの、生命《いのち》のほども覚束《おぼつか》ない重傷に呻吟《しんぎん》しているおり、その真相が知り得られようわけがない。こう認めた、たしかにこうだと、力《りき》んで証明するものがあるとしたとても、それすら、二人の心からは門外漢である。そう見えたとしても、そうであったかどうだかさえ疑問であるのに、ましてや、その死に対する二人の心のうちにも、どんな別々の考えがあったかも測り知れぬではあるまいか。瀕死《ひんし》の女と、已《すで》に死んでしまった男との魂が、その瞬間にも合致していたかいなかったか、それすらももう片方の者が亡《なく》なってしまった上は、たしかめる事さえ出来はしない。ああであったろうというのは、縦《た
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