言われた。
そして明子《はるこ》氏はまたこう言っている。
[#ここから2字下げ]
……夫人がその地位も名誉も、子供に対する愛も否その生命までも犠牲にして肯定しようとした愛は、世間の人たちが言うような単なる劣情のためではなく、夫人の現実の生活よりももっと真実な、もっと純な、もっと高い、そしてもっと美しい情操の世界に対する憧《あこが》れであったのだろうと思います。またこの愛は夫人の生涯における最初の経験であったと共に、夫人の現在の生活の中のただ一つの真実であったのだろうと思います。とはいえ夫人とてもいよいよ愛を肯定するまでには、色々な内心の争闘があったことでありましょう。……それにもかかわらずやはり最後には一切の虚偽を否定して彼女の世界のただ一つの真実を肯定したのでありましょう。夫人の教育は私がここで述べたようなはっきりとした意識を一々与えてはいなかったとしても、夫人の本能が夫人を真実なものにつかせたのであろうと思います
[#ここで字下げ終わり]
とて、話が逸《そ》れるが、いつも男女間の愛とさえ言えば、すぐ劣情とか痴情とか言って暗々の裡《うち》に非難の声と共に葬り去ろうとする習慣を不快に
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