思うと言い、これは婦人の感情生活に対してあまりに理解を欠いた態度であり、そうした習慣が色々な意味で人間の道徳生活の向上を妨げ、社会によくない影響を与えると述べられた。
三
さてそこで、家出当時の鎌子の服装が思いがけぬ疑惑を他人《ひと》に与えている。緋《ひ》ぢりめんの長じゅばん、お召《めし》のコートというところから、伯爵家の若夫人の外出の服装ではないといい、わざとああした目立たぬ扮装《ふんそう》をしたのであろうとも言い、取りいそいで着のみ着のまま出たのであろうとも言われた。そしてそれならば、最初家出の時には死ぬつもりではなかったろうといい、死をきわめていたからこそそのままで飛出したのだといい、死ぬのならば千葉までゆかずともの事であり、翌日を待たずともだとも難じられた。けれどその時間の長短は、その人たちには実に余儀ない推移で、思いきりや諦《あきら》めでは到底満足されない生死の葛藤《かっとう》が無論あったはずだ。決断がにぶいといったものもあるが、彼れらは決して拈華微笑《ねんげみしょう》、死を悦びはしなかったのだ。出来ることならば生のよろこびを祈ったのだ。充分に生の享楽を思
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